次の祝祭までには
老女は庫内を空にして収納ケースを外し、汚れをこすり落とす。プリンスは、ゆっくりと食事中で、プーチンはソファのはじに寝そべって、老女をじっと見つめている。ふと、わたしも彼女に見とれてしまった。たしかに老女だとは知っていたが、まちがいなく年老いた女だった。ずんぐり、がっちりの体型は、こんなにも小柄というかチビで、その頭はわたしの胸辺りまでしか届かない。肌はかなり透き通っていて、頭から首回りにかけては3色の静脈が浮き上がり、その色は冷蔵庫の右の野菜ケースを取り出そうとかがんだ時に、薄くなった。
ふと、自分の中にひどくうしろめたい思いが湧いた。老女はおそらく廃屋に住み、ここで稼いだ給料の半分を、でぶのフィリッピン男に支払って、その残りの500シェケルを糧にしているというが、いったいどうやって暮らしているのだろう? わたしの他に、雇い主がいるにちがいない。部屋に電気や水道はあるのだろうか? どこで洗濯をしてるのだろう? そして、何を食べているのだろう?
「さてと、サンドイッチいいか?」いきなり、老女が言った。
一瞬、びくっとした。冷蔵庫はすっかりきれいになっている。床には、庫内にあった食材がゴミのごとく積まれ、老女だけが知る方法で再生してもらえるのを待っている。
「もちろん、もちろんよ」わたしは、食べごろのアボカドをさがしに急いだ。老女は初日から、アボカドのサンドイッチだけを好む。プーチンにわたしが近づくと、まるで蛇に嚙みつかれたみたいに、窓から外に飛び出した。わたしは洗剤の残る床を注意深く歩き、いつものようにアボカドのサンドイッチを、レモンを数滴と塩一つまみ、そしてスライストマトを3切れ加えてつくった。そして長めのグラスに水を注いだ。老女は腰をおろし、だまってそのサンドイッチを食べ、流し台に小さな皿を置いた。グラスの水は、まだ飲んでいる。
わたしは、思わず自分の身をすくめた。もしかして、この食事で一日が終わるのではないか。この時になって、思ったほど老女ががっちりしてはいないことに気づいた。身に着けているだぶだぶの服と粗末な布地でそうした体型に見えていたが、今になってやっと、その姿が目の前にはっきりと現れた。70歳あるいはもっと年上の超小柄な女性、ごつごつ痩せて、肌が朝露のように透き通っている。空腹に耐え、わたしの家で一生懸命に働いて稼いでいる外国人。
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